国家財政は破綻寸前 その4 米長期金利の更なる上昇が日本の金融危機を誘発

前回は国債は市場の売り買いで価格が決まり、それによって金利が上下することを見ました。このことは日本の財政を考えるうえで非常に大切なポイントです。国債を無限に発行できる、あるいは国債が消化できなければ日銀が全部買い取ればいいなどという言説のほぼすべてが、国債金利というファクターを無視して組み立てられています。

 

現在日銀のフォワドガイダンスと称する金融抑圧政策により国債金利の上限を0.2%となるよう市場介入しています。お役人が訳の分からない言葉を使うときはその意図を考える必要があります。多くは国民がその本質を分からなくするための言いかえです。敗戦を終戦という言葉でごまかしたのも官僚でした。

 

金融抑圧という言葉は英国が戦後10年以上にわたり名目GDPが年率10%程度の成長を見たにもかかわらず、長期金利を3%近辺に抑えた金融政策に使われました。長期金利は(期待GDP上昇率+期待物価上昇率)に収斂していきます。英国はGDP成長率より約7%も低い金利を継続したわけです。この理由は第二次世界大戦の戦費調達で国債残高がGDP比260%に達したことにあります。英国中央銀行国債のデフォルト(償還不能)の事態を避けるために金利を13年にわたり低く維持しました。英国は戦後しばらく国債の発行をしていませんので13年後には国債残高のGDP比率は96%に下がりました。

 

日銀のフォワドガイダンスと称する金融抑圧は英国の例を参考にしているのかもしれません。現在名目GDP上昇率(実質GDP 上昇率+物価上昇率)はおおむね2%程度ですから、日銀の政策は約2%金利を抑圧していることになります。

 

ちょっと本論からそれて視点を変えてみましょう。最近銀行は低金利且つ価格低下リスクのある日本国債を手放しもっぱら米国債を購入しています。10年物米国債金利は約3.2%で日本の国債とは3%の開き(イールドスプレッド)があります。米国債の購入は円を売ってドルを買うことを意味します。また、経済動乱にそなえて個人ベースでも外貨預金をする人が増えています。これも円を売って外貨を買うことです。すでに相当量の円が売られ外貨(その主なものは米ドル)にかわっています。

 

FRB(連邦準備制度理事会、米国の中央銀行)はリーマンショック後の金融緩和の出口政策として金利を正常に戻す動きを続けています。3回にわたって行われた金融緩和は2014年に終了し、その後金利政策にシフトしています。当時のイエレンFRB議長は出口政策をきちんと行うことは次の金融危機に備える絶対的条件だと述べています。彼女の言う対策とはリーマン危機と同様、税金の金融機関への投入と金利の引き下げです。米国は着々次の金融危機に備えるべく手を打っているのです。

 

数字を見てみましょう。FRBはFFレートという短期金利(3か月物国債金利)をベースに金利の調節を行ってきています。2014年のゼロ金利から一回に0.25%上げ現在2.25%になっています。多分今年もう一度、そして来年も継続の見込みです。短期金利が3%越えになった時、長期金利は5%に近づきます。

 

日本のほぼ0%の長期金利と米国の長期金利5%の差(イールドスプレッド)により大量の円の国外逃避が起きるでしょう。これは金利の上昇圧力となり10年物国債金利も2%になっていくと思われます。

 

ここで国債の価格と金利の関係を思い出してください。金利が2%上がると1000兆円の国債の価値の下落はどれほどのものになるでしょうか。国債には3か月物から40年物まで各種ありますが平均残存期間を8年とします。

[1÷(1+0.02X8年]=1÷1.16=0.86

つまり1000兆円の国債の流通価値が860兆となり140兆円もの巨額損失が生まれます。

 

国債はBIS(国際決済銀行)基準により簿価でバランスシートに載せてよいことになっているので、140兆円の損失は単なる含み損となりすぐに影響は出ることはありません。しかし、リーマンショックの引き金になったレポ金融(銀行間の1日~2週間程度の金の貸借)は国債などの債権を担保に行われておりこれは日本でも同じ事情です。140兆円の担保価値の収縮はすぐに追加担保の差し入れ(株の追証と同じ)を迫られますが現在の金融機関にそんな体力があるとは思えず、貸金の即日回収の動きとなり、金融危機を引き起こします。

 

以上のことから日銀の金融抑圧政策の限界はFRBによる金利の上昇により米国の長期金利が5%近辺に上昇したころとの予測ができます。日銀がいくら頑張ってもゼロ金利を維持することは不可能です。2%の金利上昇でも金融危機を引き起こす可能性が大きいことは、日銀や政府は絶対に口にできませんが我々はその危険を十分に認識しておく必要があるかと思われます。

 

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