ハイパーインフレーションの可能性検証

ハイパーインフレという言葉を耳にした方は多いと思われます。

 

日本でも戦後の数年で物価が100倍以上上がり、国民は塗炭の苦しみを味わっています。

 

ハイパーインフレ論議に入る前に「物価上昇」がどういうプロセスで起きるかをおさらいしておきたいと思います。

 

物価上昇のプロセスにはいくつかの考え方があります。(以下野口悠紀雄著「異次元緩和の終焉、102,103頁を参考にしています。)

 

第一に貨幣数量説です。貨幣の発行量が増えると物価が上昇するという考えです。中国ではインフレを「貨幣膨張」というそうですが、物価の上昇という結果より貨幣過多という原因に視点を置いたなかなか優れものの言葉です。

 

第二はマクロ経済学に依って立つ「経済全体の総需要が物価を決める」という考えです。所謂ディマンドプル型の物価上昇、即ち需要が供給を上回ることによる物価上昇はこの典型でしょう。戦後のインフレはディマンドプル型だと言えます。

 

第三に「供給要因」により物価が決まるとするものです。特に日本の2011年以降の物価上昇のあらかたが円安、原油高による輸入コストの上昇により引き起こされているという野口氏の指摘は重要です。

 

まぁいずれかの学説をとるよりは物価上昇はこれらの要因が複合して起きると考えた方がよさそうです。そしてアベノミクスが開始した2013年4月以降の物価上昇は第三の要因、即ち円安、原油の価格による輸入コストの変化によるものが大きいということを認識しておきましょう。

 

さてハイパーインフレに戻りますが、学問的に定量的な考察はどうも行われていないようです。経済学者の一般向けの解説は多くありますが、すべて定性的であり何をハイパーインフレと定義し、それはどんなプロセスにより起きるかの定量的なものは皆無です。

 

ハイパーインフレは何か経済的危機をきっかけとして人々が貨幣への信用を失い、物、サービスの価格が瞬時に暴騰するとの恐怖にかられたときに起きると思われます。

 

例えば国債が暴落し、円が1ドル200円を超えて下落した時など輸入コストは2倍以上になり物価の急激な上昇をもたらします。勘のいい人たちがまず物価上昇が始まってすぐに商品を買いに走ります。この認識が人々に波及し皆が我先に商品を買おうとします。これが広がると日銀券をどんどん発行しなければならなくなります。1923年ドイツのインフレはパン一切れを買うのに膨大な枚数の紙幣を用意しなければならなくなり、お金の印刷が間に合わなかったと言います。。

 

人々の認識(共同幻想)という常時変化し定量化できないものがハイパーインフレの大きな要因であるので学術的な考察はなかなかできないのではないでしょうか。

 

要は人々の認識です。「物価が上がるぞ、お金を預金しといたら損するぞ。」という考えが一般認識になり、どんどんお金を使って商品を買うようになるとハイパーインフレが起きます。

 

先ほど見た物価上昇の原因の貨幣数量説ではよくフィッシャーの方程式というのが使われます。

[貨幣数量X流通速度=物価X取引量]

というのがこれです。

ここで注目すべきは流通速度です。日銀統計などによればここ最近の貨幣の流通速度はおおむね0.5近辺です。貨幣数量はマネーストックです。ハイパーインフレではこの流通速度が100倍にも達することがあるそうです。すると等式の右、「物価X取引量」のうち、取引量は物・サービスの数量が限られていますので貨幣流通速度が100倍になれば物価も100倍近くに暴騰するということになります。

 

日本にハイパーインフレは起きないとする説の多くはこの貨幣の流通速度という要因を見落としているかあえて隠していると言えます。

 

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